30分後、店に現れたスーツ姿のその人は、話に聞いて想像していた通りの人だったのかもしれない。


50代でもきちんと整えられた身なりと、そして優しさの混じる顔立ち。


ママは涙を零しながら、頭を下げた。



「…ご無沙汰しています、土屋さん…」


声も途切れ途切れになるほどに、でもママは懸命に言った。



「ナナさん、お久しぶりですね。」


勇介と似ていないのに、口調の柔らかさは同じだった。


彼もまた、泣きそうな顔でママとの再会を慈しんでいるかのよう。



「親父、紹介するよ。」


その言葉に、向けられたのは彼の視線。



「奈々だよ。」


「…奈々、さん?」


「静香さんの娘で、俺が一番大事に思ってる人。」


お父さんは、本当に驚いたというような顔であたしを見て、そして泣きそうな瞳を緩めた。


きっとそれだけの言葉で、全てを汲み取ったのかもしれない。



「そうか、キミがあの時の。
ナナさんに、とてもよく似ているね。」


ただあたしは、言葉すら発せず、泣くことしか出来なかった。


それはあたしが意識の奥底で求めていた父親の瞳で、とても柔らかいものだったから。