失意の中で過ごした、一ヶ月。


この街を去った彼女と連絡を取ろうという気にもなれず、また、向こうからも音沙汰がない。


あれほど一緒に過ごしたのに、と思うと裏切られたような気持ちにもなったし、でも連絡すべきではないとも思っていた。


そんなある日のことだった。



「…静、香…」


彼女は出勤する自分を待ち構えるように、店の裏口に佇んでいた。


店長はすぐに事情を察してくれ、店の中で話すことに。



「ずっと連絡出来なくてごめんね、真哉。」


「良いんだ、そんなことは。」


素っ気ないだけの言葉しか返せない。



「アパートね、今月で引っ越すから、そういうの忙しくて。
来月の彼の誕生日には、入籍する予定よ。」


微笑んで話す言葉にも、どこか苛立ってしまう。


どうしてそんなに幸せそうな顔なんだろう、って。


静香の恋人は、写真で見たことはある。


だから恋愛感情もないくせに、醜い嫉妬心にまみれてしまうのだろうけど。



「真哉は夢に向かってる?」


夢なんてもう、ひとりじゃ見られない。


でもそんな沈黙を破ったのは、他の誰でもない、低い男の声。



「静香、何やってるんだ!」


突然に店のドアを蹴破るようにして入ってきたのは、彼女の恋人であり、お腹の子の父親でもある、あの男だ。


ふたり、驚くように目を見開いていたのだが、でも彼は鬼のような剣幕だった。