「あたしいつか、この街で誰もが知るナンバーワンになるのが夢なの。」


「なら俺は、それより先に一人前になって、店出してやるよ。」


「じゃあ、競争だね。」


互いにそんなことを胸に抱き、誓いにも似た約束を交わした。


彼女がナンバー入りを果たした時はふたりで祝杯をあげたし、だからずっとこんな日々が続くのだと思っていたんだ。


この街で、そうやって必死で生きてきたのに。


なのにそれが一瞬にして壊れたのは、出会って一年が経った頃。



「あたし、赤ちゃんが出来たの。」


もちろん産むよ、と言った時の彼女の瞳は、いつものように真っ直ぐだった。



「…静香、ちょっと待てよ…」


突然に、しかも何を言っているのかがわからない。


いきなりそんなことを言われたって、はいそうですか、なんて言えるはずもなく、どこか裏切られたような気持ちにもなった。


だって、じゃあ約束は?


そう言いたかったけど、でも反面で、静香がこれで幸せになれるのなら、祝福すべきなのかもしれない、とも思ったのだ。


ただ、何も言えなかった。



「あの人も、結婚しようって言ってくれたの。」


静香がいなくなる、アイツに奪われる。


自分の所有物でもないのに、身勝手にもそんなことさえ思ってしまう。


所詮は17のガキで、だから彼女が“母親”になるなんてことさえ、どこか現実的に想像も出来ない。



「そっか。」


精一杯で言った台詞は、だけども乾いた笑いしか出てこなかった。


それと同時に、笑って祝ってやれない自分の醜さも痛感していたのだろう。


そして彼女は、夜から抜けた。