あたし達は真っ暗な学校を出て、勇介の差す傘の下、肩を並べて歩いた。


携帯は、ママに今日は友達のところに泊まる、という旨のメールだけを送り、また電源を切ったままにしておいた。


そして結局、あたし達が入ったのはラブホテルだった。



「あたし、これでも一応まだ、“ヒロトのカノジョ”だから。」


「知ってるよ。」


何より血が繋がっているかもしれないのだし、セックスなんてしようとは、互いに思わない。


それに、解決しなきゃいけないことも、乗り越えなきゃいけないことも、山ほどあるんだから。



「明日、ヒロトに会わなきゃね。」


言うと、勇介は少し困った顔で笑っていた。


当然だけどこの場所に雨音が響くことはなく、暖房の熱に包まれる。



「奈々は葛城が好き?」


「そうだね、好きだよ。」


そっか、と彼は言う。


けれどその感情は、もう恋愛めいたものではないのかもしれない。



「でも、勇介も好きだよ。」


「何それ、欲張りすぎでしょ。」


勇介が笑うから、あたしも笑う。


人の様々な感情は、だけども同じ二文字にしか表わせないなんて、困った話だ。


血の繋がりなんて所詮は目に見えなくて、だから今だけは、互いにそんな話をしたくなかったのかもしれない。


朝が来れば、もう目を逸らすことは出来なくなるのだろうから。