勇介は、ずっとひとりで抱えてくれてたんだ。


それはきっと、あたしには計り知れない苦しみだったろう。



「俺、どのみち学校辞めようと思うんだ。」


息を吐き、勇介は言う。



「奈々が今の話を聞いてどうするかは自由だよ。
もしも聞かなかったことにして今まで通りにしたいなら、俺が奈々の前から消えれば良いだけの話だ。」


けど、と言い、彼はあたしを真っ直ぐに見据えた。



「それでも俺と一緒にいることを選んでくれるなら、ここじゃないどこかに行こう。」


正直、そんなことを急に言われたって困る。


でも現実には、あたしの目の前にいるこの人は、“お兄ちゃん”なんだ。



「ねぇ、やっぱりちゃんと確かめるべきなんじゃない?」


あたし達が生まれるに至った過去。


例えそれがどんなものだったとしても、知る権利はある。



「じゃなきゃ、もしもふたりで逃げたって、きっとダメになるよ。」


逃げることがどれほど楽なことかは、自分自身が一番よく分かってる。


けど、それで良かったことなんて、一度もなかったんだ。



「でも、今よりもっと知らなくても良いことを聞かされるかもしれないんだよ?」


「あたしと勇介が兄妹かも、ってこと以上に驚くことなんて、他にないよ。」


勇介は、一度迷うように視線を落とし、そしてわかった、と言ってくれた。


雨音はいつの間にか小康状態になっており、でも肌寒さは拭えない。



「でもその前に、体あたためなきゃね。」