吐き捨てられた台詞は、物悲しくあたしにつき立てられる。


今のヒロトは全てを隔絶するような目をしていて、少なくとも最近は、あたしにだけはこんな顔なんてしなかったのに。


彼は苛立つように、髪の毛をくしゃくしゃにした。



「ねぇ、とりあえず別の場所に行こうよ。」


ここじゃ誰に見られるとも限らないし、落ち着いて話なんて出来ないと思ったから。


なのにヒロトは唇を噛み締め、ガッ、と壁を殴る。



「何、そこで俺の機嫌でも取ろうって?」


詰め寄ってくる瞳は、歪んだものだ。


一度こうなったヒロトを止めるのは、容易ではないことは知っている。



「俺がお前にそんなこと頼んだことなんて一度もねぇだろ!」


「…ちょっと落ち着いてよ…」


「うるせぇんだよ!
樹里みたいなこと言ってんじゃねぇ!」


瞬間、ハッとしたような顔になったのは、彼の方だった。


どうしてそこで、樹里の名前が出てきたのだろう。



「何それ。」


精一杯で、あたしはヒロトを睨み付けた。


だってそうでもしなきゃ、わけもわからないままに泣いてしまいそうだったから。


だから歯を食いしばったのに、頭の中では彼の台詞が反復する。



「樹里と、何なの?」