ヒロトが荒れているのも日常だった。


後輩とモメたとか、先輩に喧嘩売ったとか、そういった噂も飽きるほど聞いていたけれど、でもあたしは傍観するだけだった。


彼はあたしには優しかったから。


だから咎めるでもなく一緒にいたし、嘘か本当かもわからないような顔で笑い合っていた。


支えもしないなら、安易な気持ちでヒロトの傷に触れるべきではないと思っていから。



「樹里、おはよ。」


「あぁ、はよー。」


樹里とは未だにあまり目さえ合わせないけれど、でも“友達”なんだと思う。


だからヒロトとのことを聞くでもなく、知らないフリを貫きたかった。


もしかしたら彼女は、あたしのことを心の中で嘲笑っているのかもしれないけれど、“ヒロトのカノジョ”の位置を手放さなかったのは、それも一因なのかもしれない。


勝ち負けなんてことじゃないけど、でも、無意識のうちに渡したくないと思っていたのかも。



「奈々、ポッキー食う?」


「あ、さんきゅー。」


上手く笑えているのだろうか。


樹里がいつ切り出すかということに怯え、まるで綱渡りのような会話だったろう。


彼女の差し出してくれたそれを一本抜き取り、口に咥えた。



「あー、さゆにもちょうだい!」


こちらを見て目を輝かせた沙雪が駆け寄ってきた。


本当はこのぴりぴりとした空気を感じ取っているくせに、いつも和を保つようにあたし達の間で笑ってくれる。


だからこそ、まだ三姉妹としてやっていけるのだろうけど。