樹里のことが気にならないと言えば嘘になるし、本当は今も隠れて会っているんじゃないのかと、問い詰めたかった。


でも、それが出来なかったのは、昨日、あたし自身が勇介を前に、涙を零したからなのかもしれない。


ヒロトは弱いのだと思う。


だけどもあたし自身も弱いから、互いを責めるでもなく縋り合っている。


その感情は、きっと“好き”とは違う気がした。



「なぁ、許してくれんの?」


許すとか許さないじゃない。


わかっているくせに言葉にしたヒロトは、一体あたしに何を求めているのだろう。



「アンタもあたしもお互いに別れたくないって思ってんなら、それで良いじゃん。」


弱さしか生まない関係の、何が良いと言うのだろう。


でも、ヒロトが笑ったから、あたしも笑った。


だからあたし達は、ある意味では互いを大切に思っているし、失うことを恐れていたんだと思う。


もちろんそれは、互いのためであり、自分のためだけれど。



「購買、ヒロトの奢りで全部チャラにしてあげる。」


「ったく、しょうがねぇなぁ。」


そんないつもの台詞を聞きながら、あたし達は並んで歩く。



「なぁ、ついでに次の授業サボろうぜ。」


「ちょっと、勘弁してよねぇ。
あたし遅刻してきたし、これ以上サボってアンタと一緒に留年すんのなんか嫌だって。」


「相変わらず、お前は冷たい女だよ。」


元に戻ったのだと思いたかった。


でももう、見えないところに生まれた亀裂は、修復できないところまできていたんだ。


壊れることに、時間は掛からなかった。