遅刻して学校へと来たとき、ちょうど2時間目の終わりの休み時間だった。


騒がしい廊下を歩いていると、少し向こうには壁に寄り掛かるように佇む彼の姿。


ふと、持ち上げられた瞳はあたしに気付き、でも、僅かにそれは逸らされた。



「おはよう、ヒロト。」


「…おう。」


どこかよそよそしくて笑ってしまう。



「何よ、変な顔しちゃって。」


奈々、と彼は、遮るように言った。


だけども先に口を開いたのは、あたしの方だった。



「別に別れ話するわけじゃないんだし、そんな神妙な顔されたって困るよ。」


ヒロトは困惑するような瞳を揺らす。


本当は、別れれば互いが楽になれることくらい、わかってる。


それでもあたしは、そんな決断を下す勇気がないんだ。


何事もなかったかのように振る舞えば、きっとそのうち何でもないことのようになってくれる気がしたから。



「ねぇ、あたし購買行くんだけど、一緒に行こうよ。」


別れたい、と言えなかったのは、あたしの弱さ。


そして、樹里とは喋らないでよ、なんて言えなかったのは、無意味なプライドが邪魔していたから。


だからそれは、決してヒロトと向き合おうなんて決めたからじゃないんだ。


彼の安堵したような顔を見ると、いたたまれなくなってしまう。


傷つけているのは、あたしなのか、ヒロトなのか。