言葉が出なかった。


強さしかないと思っていたヒロトが、今まで隠していたこと。


それを知った時、なのにあたしは手を差し伸べることさえ忘れていたんだ。



「なぁ、俺らってホントに付き合ってんの?」


「…何、言って…」


「つーかお前、ホントは俺じゃなくても良いんじゃねぇの?」


責めるでもない口調は、ひどく弱々しい。


声を荒げてくれれば反論だって出来たろうに、呟きにも似た台詞はただ宙を舞った。



「あたしはヒロトじゃなきゃダメなんだよ。」


言えた言葉ですら、声が震えている気がする。


あたしの顔を見て、でも彼はまた、目を逸らした。



「悪ぃ、奈々。」


そうヒロトは、自嘲気味に笑う。



「俺、お前といると何でかわかんねぇけど不安になんだよ。
こんなんキャラじゃねぇし、だから多分、俺もどうかしてんのかもな。」


そんな顔をさせたいわけじゃないし、こんなことを言わせたかったわけでもないのに。


ただあたしは、ヒロトのことを何ひとつ見ようとはしていなかったということ。


強がって、内側ばかり隠していたあたし達は、きっとこういうところから崩れ始めたのかもしれない。


徐々に荒れていくヒロトを前に、あたしは手をこまねくことしか出来なかったんだ。


受け入れてあげられるほど、あたしだって強くはなかった。