答えないあたしに痺れを切らしたのだろう、ヒロトは舌打ちを混じらせた。


だけども泣きそうな顔を上げるより先に、彼は背を向ける。



「俺さ、今めちゃくちゃイラついてんだよ。」


吐き捨てられた台詞が、突き刺さった気がした。


ヒロトは窓の外へと視線を滑らせ、物憂げな顔をする。



「ババア、再婚するかもしれねぇ、って。」


「……え?」


呟かれた言葉に、無意識のうちにその顔色を伺ってしまう。


彼のお母さんはうちのママと同じくらいに若く、しかも恋人がいるのは知っていた。


そしてヒロトはお母さんが好きで、だから余計に戸惑っているのだろう気持ち。



「いきなりコイツが親父になる、とか言われたって、俺そんなの納得出来ねぇし。」


彼の、それは誰にも見せなかった弱さなのかもしれない。


でもあたしは、何と声を掛ければ良い?



「俺がずっと反対してっから、ババアは再婚しねぇんだって。
でもやっぱ許せねぇし、そんなんどうすりゃ良いんだよ、って。」


「…ヒロ、ト…」


あたしは今まで、彼に求めるばかりだったのかもしれない。


けれども自分のことだけでも手一杯なのに、ヒロトを支えられる自信は、正直ない。



「ババアはわけわかんねぇ男連れてくるし、お前は俺に何も言ってくれねぇし。」


そして向けられた瞳は、ひどく悲しそうなものだった。



「マジ、俺って何?」