翌日、学校に行くと、ヒロトと樹里が廊下の隅で話し込んでいた。


あたしがその傍まで近づくと、彼女はじゃあね、と言って、すぐにいなくなってしまう。


ヒロトは一度顔を俯かせ、そしてあたしを見た。



「うっす。」


朝から怪しい空模様と、そして彼の様子。



「樹里と何の話してたの?」


「別に普通のこと。
それよりお前、目ちょっと腫れてんな。」


あたしのまぶたに触れる指先は、優しいものだ。


でも、昨日のこともあってか、ヒロトまで何かを隠しているように見えてしまう。


まるで話を逸らしたかのようだ。



「遅くまで映画観ててさ。」


そっか、と彼は言う。


何だかぎこちなくて、また誤魔化してしまった自分も嫌になる。



「なぁ、それより昨日のアレ、何だったんだよ?」


ママの写真を見た途端、あたしは顔色を変えたのだ、彼が聞いて来るのも無理はないのだろう。


例えばみんなには、当然のように父親と母親がいる。


もしもどちらかがいなかったとしても、その人の名前さえ知らないなんてことはないだろう。


でもあたしは、何も知らない。



「もう良いわ。」