「奈々んちって初めて。」


家に招き入れると、ヒロトは物珍しそうな様子できょろきょろとしていた。


その姿に笑いながら、あたしの部屋へと案内する。



「昔さぁ、意気揚々と女の部屋入ったら、ピンク一色だったことがあって。
あれにはさすがの俺もドン引きだったけど。」


「普通でごめんね。」


あたしの部屋なんて、シンプルだとしか表現出来ないような感じだ。


リビングから持ってきたシンちゃん用の灰皿を差し出すと、それを受け取ったヒロトは煙草を咥えた。



「どうしたよ、元気ねぇじゃん。」


そんな言葉で、昼間の小競り合いを思い出した。


だけどもそれをヒロトに言えるはずなんてないんだから。


ただ、振り払いたいことが多すぎる。



「ねぇ、あたしのこと好きって言わないで。」


好きだと言われればあの人のことを思い出すことが怖い。



「でも好きでいて。」


言った瞬間、彼はあからさまに眉を寄せ、唇の端から煙を吐き出した。



「意味わかんねぇから。
つーかお前、マジどうかした?」


「どうもしないよ。」


「どうかしてるから聞いてんだろうが!」


声を荒げるヒロトに、無意識のうちに身が強張る。


目を逸らせば、彼は乱暴にまだ長い煙草を灰皿へとなじる。


それでも、ヒロトに求めることはいつもひとつだったのかもしれない。



「なぁ、お前今、誰のこと考えてる?」