弾かれたように顔を向けてみれば、不安そうな様子の沙雪。


一体何を心配しているのだろうか。



「樹里が話してんのが、たまたま勇介だった、ってだけでしょ?」


そしてあたしは窓に背を向ける。



「関係ないっての。」


「でも、奈々は勇介くんのこと見てたんじゃないの?」


どうして沙雪は、こんな時ばかり言葉にするのだろう。



「やめてよ、そんなわけないじゃん!
何であたしがあんなヤツのこと…」


そこまで言って、声を荒げていた自分に気がついた。


だから悔しくて唇を噛み締めると、沙雪は戸惑うような顔になる。



「ごめん、でも気分悪いから。」


完璧八つ当たりだろう。


でも、学校にいる限り、いつもどこかでその名前を聞いてしまう。


切り捨てられたのはあたしの方なのに、まだ苦しめというのだろうか。



「ねぇ、奈々ってホントにヒロトくんのこと好きで付き合ってんの?」


じゃあアンタはどうなんだよ。


そう言い掛けたが、でも辛うじて出掛かったものを飲み込んだ。



「当たり前じゃん。」


沙雪だって、少なからずスッチのことを利用しているくせに、そんな風に言われる筋合いはない。


苛立ちは増すばかりだ。


あたし達は、誰かを傷つけなければ恋のひとつも出来ないのだろうか。