彼のことを忘れられたのか、それとも痛みが麻痺したのかはわからない。


ただもう、あたし達は無関係な頃に戻った、というだけの話だ。


関わり合っていたこと自体、夢だったのかもと、今では思う。



「なぁ、怒ってるか?」


「…どうして?」


「あいつらにバラさない方が良かったか?」


どうしてこんなことを聞くのだろう。


ヒロトは一体、誰を試しているのだろうか。



「関係ないよ。」


そんな言葉を投げてやると、彼はそっか、とだけ言い、また歩き出す。


相変わらず雨音は耳触りで、ヒロトもまた、窓の外を眺めながら、憂鬱そうな顔をしていた。


だからなのか、まるで付き合いたてのカップルには見えなくて、何故だか笑ってしまいそうになる。


例えば晴れることを知らない空模様のように、彼の心の中もまた、何かで覆われているかのようだと思った。



「なぁ、この時間に化学室の鍵開いてんの、知ってた?」


行こうぜ、と言うヒロトは、至極分かりやすいのだろう。


抱き合うことで、きっと互いの中にあるものを取り除ける気がしていた。


そしててっとり早く、彼に愛されているのだという実感を得ることも出来たのだ。


この人といると少なくとも、余計なことを考えなくても良いから。