「うっせぇよ、馬鹿。」


やっぱり彼は、不貞腐れているように呟いた。


窓を打つ雨足は先ほどよりも弱くなり、だから少しだけ楽になれたのかもしれない。


漂う煙は立ち昇って消える。



「あー、もう!
こんなんすげぇ格好悪ぃよ。」


そう、ヒロトは頭をくしゃくしゃっと掻いた。


愛が何かなんて、そんなことは未だにわからないけれど、でもきっとあたしは、ヒロトを愛しているんだろうと思った。


だからまた、笑ってしまうんだ。



「良いじゃん、あたしの前でだけなら。」


うるせぇよ、とまた彼は言う。


いつも眉間にしわを寄せているヒロトの、照れた姿だ。


彼の香りに満ちた部屋で、それに包まれながら、思考は次第に薄れゆく。



「寝るのかよ?
ったく、しょうがねぇなぁ。」


意識の端で聞いた声色は、ひどく優しいものだった。


だからあたしは愛されているんだろうなぁ、と思いながら、目を閉じる。


きっとこれで、幸せになれる気がした。


そうなりたいと、あたしは強く望んでいたんだ。





歯車は、

また戻れない方へと進んでいく。