「つーか、何でスッチだけ米の量多いんだよ!」


「そりゃあ人徳ってヤツっしょ。
俺、おばちゃんと仲良いから。」


スッチは沙雪の横に座り、あたしの横にはヒロトがきた。


けれどもやっぱり誰も、それを不思議がることはない。



「お前さぁ、飯食う時くらいそのチュッパどうにかしろっつんだよ。」


そして馴れ馴れしくも、あたしの肩が抱かれる。


でも、ひとりだけ学食に来て何かを注文するでもなくチュッパを食べているあたしは、きっと場違いなのだろう。


昨日のこともあり、みんながこちらを伺うように見ている気さえした。


勇介からヒロトに乗り換えた女だとか、そんな会話ばかりが聞こえて、やっぱり気分が悪くなる。


何でいつもあたしが悪者なのか。



「奈々は機嫌悪いといっつも喋らなくなるもんね。」


沙雪はそんなあたしを適当にあしらい、スッチとエビフライの交換をしていた。


ヒロトがそれを茶化しながら笑い、でも、全てが耳障りな雑音にしか聞こえないんだ。


だから自分が思うよりずっと、勇介のことで傷ついているのかもしれないけれど。


それでも何より、誰も樹里のことに触れないのが、一番不自然だと感じた。


でも、切り出すことを、きっとあたしは心のどこかで恐れているのだろう。


だって人が何かを隠す時は、決まってそれが誰かを傷つけることに繋がるから。


だからあたしは、聞くのが怖い。



「奈々?」


弾かれたように顔を向けてみれば、ヒロトに顔を覗き込まれているはずなのに、なのに視界を占める景色は歪んで映る。


突然のことに沙雪はわたわたとし始め、スッチはぎょっとしていた。


だからその時初めて、自分が泣いているんだということに気がついた。