あのママが泣くようなことがあるのだろうか。


いつも奔放な彼女を思えばそんな姿は想像出来なかったが、でもやっぱり、今日も聞くことは叶わなかった。



「まぁ、勇介なんてクソ野郎のことは、さっさと忘れちまえ。」


それがあたしのためなのだと、彼は言った。


今となってはもう、勇介の言葉の何が本当だったのかさえもわからない。


好きだと言ったことも、あたしのことを傷つけないと言ったことも、何もかも。


夜の闇に飲み込まれてしまいそうだ。



「あとさ、ヒロトもやめとけよ。」


「…どうして?」


「アイツの方が信用出来るのは確かだけど、でも、いつかまたお前は傷つく。」


はっきりと、シンちゃんはそう言った。


それでもあたしの頭の中は未だ雑然としたままで、言葉の意味を噛み砕く余裕もない。


人の心の中は、わからないことだらけだ。



「…じゃああたし、どうすれば良いのよっ…」


呟く言葉に、だけども答えは聞かれなかった。


思わずその場にうずくまると、何も言わないままのシンちゃんは、やっぱり頭を撫でてくれる。


あたしのことなんかいらないと言った勇介の言葉と、理解出来ないと言った樹里の台詞。


それが頭の中をぐるぐると廻り、耳を塞いでも意味を持たない。


今まで消えてなくなりたいなんて思ったことはなかったけど、でももう、全てが嫌になった。


誰かのことが怖いなんて思ったのは、これが初めてだ。