これはもう、大昔から言われていること。


ちょっと抜けてる彼女には、良くも悪くも自分が母親だという自覚がない。


あたしが背伸びするようになったのは、だからなのかもしれないと、いつも思う。


晩ご飯を作り始めた彼女の後ろ姿を見つめながら、あたしはダイニングテーブルに突っ伏した。


ママは、きゃっ、とか、あちゃー、とか独り言が多くて、どうしても気になってしまうのだが。



「ママってさ、そんなんでよくあたしのこと産もうとか思ったよね。」


「だってみんな、毎日やってれば家事も育児もそのうち余裕になるよ、とか言うから、大丈夫だと思ったのよ。」


なのにいつの間にか、あたしばかり家事が上達していたわけだが。



「まぁ、ママには向いてないんだろうね。」


だけども彼女はあっけらかんとして言い放つ。


この人は底抜けに明るくて、だからあたしも嫌いじゃない。


と、いうか、憎めない人なのだ。


例えばキッチンに立つ姿が似合わなくても、母親らしさなんて欠片もなかったとしても、やっぱり彼女はあたしの“ママ”だから。



「奈々は料理も上手だし、きっと良い家庭を築けるよ。
ちゃんと結婚して、旦那さんもいて、幸せなさ。」


少し驚いたが、その後ろ姿からは何も読み取れない。



「…ママは?」


「ママは結婚したくないタイプなの。
ほら、家事はダメだし、一生遊んでいたいじゃない?」


笑った顔がこちらに向き、あたしも少しばかり口元を緩めた。


普通は遊ぶ母親なんてダメだろ、と言われるかもしれないが、あたしは楽しそうなママが嫌いじゃないのだ。


久しぶりに、具の大きさの揃っていない、ママの手作りカレーをふたりで食べた。