まるでヒロトは、全てを知ってるとでも言いたげだった。


あたしが勇介と付き合っていること、そして彼が先ほど校舎裏でしていたこと。


だからあたしを見つけ、手を引いてくれたんだ。



「…別に、ヒロトには関係ないから…」


「関係なくねぇよ。」


あたしの言葉を遮ったヒロトは、だけども声を荒げたりはしない。



「俺、やっぱ何やったってお前のこと忘れられねぇんだよ。」


「…そんな、こと…」


「だからあんなヤツなんかやめとけよ。」


強く抱き締められ、また涙が溢れた。


突き離さなければならないのだとわかっていても、あたしはそこまで強い人間になりきれない。


卑怯だと分かっていても、ヒロトに逃げてしまう。



「お前はホントは、あんなヤツといるべきじゃねぇんだよ。」


「アンタだってあたしのこと散々無視してたじゃん!」


精一杯で言うと、彼はあたしから体を離し、その瞳に映される。



「好きな女が大嫌いなヤツと付き合ってて、笑ってられるほど、俺出来た人間じゃねぇから。」


「けど、こんな時に言うなんて卑怯だよ!」


ヒロトは視線を外し、乱暴にあたしの涙を拭う。


微かに漂った煙草の匂いは、勇介とは違うものだ。



「卑怯だなんてわかってるけど、俺はそんなんでもつけ込むぜ?」