購買の近くまで来たところで、壁に寄り掛かるようにうずくまった。


呼吸さえ苦しくて、未だ勇介の瞳に蝕まれる。



「奈々?」


弾かれたように顔を上げてみれば、陽に透けた金色の髪。


焦ったように目を逸らしたが、でも遅かった。



「…見ないでよっ…!」


どうしてこんな時にヒロトに会ってしまったんだろう。


いつも無視するくせに、何でこんな時だけ声を掛けてきたのだろう。



「立てるか?」


そう言って、持ち上げられた腕。


反射的に振り払おうとした瞬間、「来いよ。」と彼は言う。


涙混じりに見上げてみれば、ヒロトは切なそうな瞳をしていた。


黙って立ち上がると、彼もまた何も言うことはなく、そのまま手を引かれる形で音楽室まで連れて行かれた。


真っ赤な絨毯と、防音設備の穴の開いた壁。


ピアノや楽器が端に置かれ、閉められた扉と、あたしを抱き締めるヒロト。


その腕は、驚くほどにあたたかくて、そして苦しい。



「泣いてんじゃねぇよ、あんなヤツのことで。」


恐る恐る顔を上げてみれば、俺も見たから、と彼は言う。



「さっき、校舎裏で、土屋のこと。」