すぐにママがトイレから帰って来て、食事が美味しいとか、夜景が綺麗だとか騒ぎ出した。


あたしと溝端さんは、そんな様子に終始苦笑いだ。



「静香さんは、いつも連れてきた甲斐があるようなことを言ってくれるから、何だか僕まで嬉しいよ。」


シンちゃんなら、うるせぇとか、黙れとか言うだろう場面でも、彼はにこにこと笑っていた。


周りの人の気持ちをほっこりさせる力を持っているんだと思う。


それから食事を終え、あたし達は帰路についた。


マンションの下まで送ってもらう頃には、すっかり辺りも真っ暗だ。



「遅くまで付き合わせちゃってごめんね?」


「いえ、御馳走様でした。」


「それじゃあ奈々ちゃん、お大事に。
あと、何かあったらいつでも病院に来てね?」


「はーい。」


ママは溝端さんに向かい、手を振っていた。


何だかんだでこの人のことが好きなんだろうなぁ、ってのが伝わって来て、やっぱりあたしは笑ってた。



「良い人捕まえたじゃん。」


「余計なお世話よっ!」


言って、ふたりでエントランスへときびすを返す。


その夜は、ママと一緒に恋愛話で盛り上がった。


楽しい一日で、きっとこれからもこんな風だと思っていたのに。






その日から、勇介との連絡が取れなくなった。


彼は誰からのメールや着信も無視し、学校に姿を現すことすらない。


そしてあたしの短い幸せは、その一週間後に突然崩れた。