樹里はそれなりに運動が出来るからまだ良いのかもしれないけれど、あたしと沙雪なんて論外だ。


と、いうか、日常生活において走ることなんて、体育以外ではないのだし。



「マジ憂鬱ー!」


言ってみれば、樹里は大爆笑をしてくれた。



「んじゃあ、勇介に応援頼みなよ。」


「ちょっとちょっと、やめてよねぇ。
てか、F組のヤツに応援されるとか、どうなの?」


「良いじゃん、誰も優勝なんて目指してないわけだし。」


そういう問題じゃないだろう。


てか、勇介なんかに応援されたら、走れるものも走れない。



「んで、汗臭い女ってことで嫌われちゃえば?」


そう、樹里はやっぱりケラケラと笑う。


こいつめ、自分だけ相手がいないからって、そんなこと言いやがって。



「大丈夫、大丈夫!
アンタが失恋したらうちらが優しく慰めてあげるからさっ!」


付き合ってないのだから失恋も何もないが、でも言いながら噴き出しそうな樹里に、また不貞腐れた。


彼女はたまに、本気であたしを応援してくれているのかどうかがわからなくなる瞬間がある。



「てか、勇介もこんなののどこが良いのかねぇ。」


「…こんなのって言うな。」


美人の樹里から言われると反論のしようもないが、でも失礼なヤツだ。


少しだけ秋の色が深まった空を仰ぎ、未だ笑う彼女を追い払った。


湿度の代わりに冷たさを混じらせるようになった風に撫でられ、テンションが上がらないことも、もう日常だろう。