彼はそう言ってから、あたしの指先を絡め取った。


スッチの話を聞いてしまったからか、余計に勇介の優しさを感じてしまう。



「好きだからさ、奈々のこと。」


きっとあたしも勇介が好きで、でもそれを伝えられるだけの一歩をまだ踏み出せない。


忘れられない何かがあるわけではないけど、それでもちゃんと、彼と向き合いたかったから。


それを教えてくれたのは、きっとスッチだったろう。



「ありがと。」


はにかむように笑うと、勇介はまた、口元を緩めた。


愛がどんなものかもわからないあたしと、愛なんてないのだと言っていた勇介。


でもあたし達は、愛するということの意味を、この時知ったのかもしれない。



「ねぇ、さゆんとこ、行きたい。」


凍てついた氷も夏には溶けるように、沙雪の傷が、いつかスッチによって癒されることを祈った。


そして願わくば、彼らの未来が同じ道の上にありますように、と。







遅れて保健室に行くと、すでに3人は笑い話に興じていた。


誰かが何かを聞くでもなく、泣き腫らした顔の沙雪をいじる樹里と、それを見て大爆笑のスッチ。



「あんたら遅いって!」


あたし達が来ることをわかっていたのだろう3人は、そうこっちを指差してきた。


思わず勇介と一緒に顔を見合わせ、笑ってしまう。


この夏を乗り越え、あたし達の間には、前とは違った絆が生まれたようだ。


ただ、ここにヒロトがいればな、と思うことは、理想論なのかもしれないけれど。


でも誰かがそれを言うでもなく、みんなで笑い合ったのだ。