弾かれたように顔を上げてみれば、階段の上から顔を覗かせたのは、勇介と樹里。


ふたりは泣いているあたしに驚いたように、ばたばたと走って階段を降り、あたし達の元へと駆け寄ってきた。



「ごめんね、土屋クン。
俺、奈々ちゃんのこと泣かせちゃった。」


困ったように言ったスッチに、勇介は一瞬睨むような瞳をする。



「でもマジ、俺の感動秘話を語っただけなんだけどさ。」


おどけるように焦って言った彼は、頭を掻いた。


ため息を混じらせた勇介は、「大丈夫?」とあたしに問う。



「あ、樹里!
さゆんとこ行くっしょ?」


スッチはそう言って、やって来たばかりの彼女の腕を引いた。


気を使わせてしまったかな、と思い、気恥ずかしくなってしまうが。


でもスッチがいつも苦笑いであるように、あたしの涙を拭うのは、いつも彼。



「俺、知ってたんだ。」


勇介は目を細め、口元を緩めた。



「いっつも奈々のこと見てたから。
だから諏訪がさゆちゃんのこと見てたのも、気付いてた。」


「…じゃあもしかして、樹里も知ってたってこと?」


勇介でさえ知っていたのなら、彼女が知らないはずはない。


スッチと樹里は同じ中学出身だし、いつも一緒だったのだから。


だからきっと知らなかったのは、本人である沙雪と、あたしだけ。


そう考えれば、自分の馬鹿さ加減にほとほと情けなくなってしまうが。



「俺はさ、諏訪みたく格好良いこと出来るとは思わないけど、でも奈々の傍にいたいと思ってるよ。」