沙雪は愛されたいのかもしれないと、樹里は言っていた。


スッチはずっと、こんなにも近くに、いつもいたのに。


ただ彼女だけを見つめ続け、その優しさで包んであげていたのだろう。



「やっぱ俺、さゆのこと好きなんだよね。」


呟く彼の呼ぶ名前は、柔らかく響く。



「だから今は、それだけで十分なんだ。」


そう、はっきりと言ったスッチの瞳に、迷いも不安もない。


彼がいつも周りを見守っていたのは、それが沙雪の居場所だったから。


彼女が笑顔でいられるために、スッチはきっと、みんなで仲良くしていたかったんだ。



「もしまたいつか、さゆが恋愛したとして、その相手が俺じゃなくてもさ。
その時アイツが幸せに笑っててくれるなら、俺満足だから。」


押し付けたくないのだと、彼はそればかりだった。


聞いてるあたしは泣くことしか出来なくて、でも沙雪の傍にスッチがいてくれて、愛してくれて、嬉しかった。



「応援してる。」


言ったあたしに笑ったスッチは、少し安堵したかのような顔だった。


頑張れなんて、そんなことは思わない。


ただ、ありがとう、と言いたくて、でもそれを先に言葉にしたのは彼の方。



「奈々ちゃん、ありがとね。」


決して本心を語ることなく傍観者であり続けた彼の、真実。


ただ沙雪を想っていただけのスッチの隠し続けた心の中は、眩しいほどに綺麗だった。



「奈々!」