沙雪が東北のおばあちゃんの家に行った日から、スッチは毎日のように彼女にメールや電話をし続けていたのだと言う。


傷に触れるでもなく、励ますでもなく、本当に他愛もないことばかり言っていたのだ、と。


彼女は泣いている日もあれば、少し笑ってくれる日もあった。


いつの頃から好きだったのかなんて、覚えてないけど。


ただ傍にいたくて、それ以上を望んだことなんて一度もなかったのだと、彼は言う。



「笑顔の沙雪が好きで、だから一番近くにいるのが俺じゃなかったとしても、見守ることで満たされてたのかもね。」


大地くんと付き合うことになったのだと彼女が嬉しそうにみんなに言った日、スッチはどんな想いでそれを聞いたことだろう。


いや、それよりずっと前から沙雪のお兄ちゃんみたいな存在で居続け、彼は恋愛相談に乗り続けていた。


代わりに謹慎になってくれたのも、全ては沙雪の笑顔を失わせたくなかったから。



「ホントさ、付き合いたいとかそんなのじゃないんだ。」


あの日、唯一スッチの線香花火だけが、落ちることなく火種を残して消えた。


沙雪の幸せを願った、あの線香花火。



「ヒロトは俺のこと馬鹿だとか言うけどさ、気持ち押し付けてさゆのこと困らせたくないじゃん?」


ヒロトがあれほどまでに、怒っていた意味。


それは沙雪のことが好きだからではなく、スッチの気持ちを知っていたから。


だから彼は、余計に大地くんのことが許せなかったんだ。



「ヤりたいなんて思ってないよ。
つか、そりゃ男だし、好きだからそういうことしたいとは思うけどね、でも傷つけるの嫌だからさ、アイツのこと。」


他の男の間に子供が出来たことは、消えない傷だ。


でもスッチは、そんな沙雪でさえ支えてあげたいのだろう。



「気にしてないって言ったら嘘になるけどさ、でもそんなさゆでも良いんだよ。」