まるで頭を鈍器で殴られたかのような衝撃だった。


驚いたままに目を見開くあたしの顔は滑稽だったろう、言った彼の方が笑っている。



「でも俺はさ、ただアイツの傍にいてやりたいだけだから。」


スッチの、いつも優しい瞳の意味。


それが誰に向けられていたものだったのか、あたしはこの時初めて知ったのだ。



「俺が勝手に好きなだけなんだけどさ。
でもやっぱ、泣いてたら慰めてやりたいし、一緒にいてやりたいじゃん?」


付き合いたいなんて思ってないと、スッチは言った。


ただ、沙雪に悲しい顔をしてほしくないのだと、彼はいつもの優しい瞳で言ったのだ。


そんな想いを、あたしは今の今まで知らずにいたなんて。



「大地って野郎が学校辞めたって、今朝土屋クンに聞いたんだ。
だから心配んなってさゆんとこ行ったんだけど、アイツも知ってたんだよね。」


でも泣いててさ、だから抱き締めたんだ。


スッチはただ何も求めず、彼女を支えてあげたいだけなのかもしれない。


もしかしたら人はそれを、“無償の愛”と呼ぶのだろうか。


その優しさに、気付けばあたしの方が涙を流していた。



「スッチはあの後、何やってたの?」


あれからの夏休み、彼はどう過ごしていたのだろう。


涙混じりに聞いてみれば、スッチは困ったように笑うだけ。



「恥ずかしいから誰にも言うなよ?」


頷くあたしを確認し、彼は思い出すように宙を仰いだ。