ママは医療事務として受付をしているらしく、彼氏は年下の内科医だという。


でもそれは、あたしの“父親”とは違う。


顔はおろか名前さえ知らないが、“父親”は毎月馬鹿高い養育費を振り込んでくれているみたいで、だからうちは生活に不自由なんかしていない。


なので一応、“父親”には感謝している。


ただ、どんなヤツが精子を提供したのかなんて、興味がないってだけのこと。


初めからいなかったんだから、ずっといなくても問題はないのだ。



「…土屋勇介、か。」


呟いてみれば、頭痛の種だ。


あたし達が今更どんな顔して友達になれば良いのかもわからないし、それ以前にやっと知ったのは、フルネームにプラスして、クラスだけ。


しかも、本人の口からではなく、沙雪から。


これが真っ当な“友達”だなんて思えるわけもないし、一体あたしはどうされてしまうのだろうと頭を抱える。


なまじ肉体関係を持ってしまった分、それをネタにされては困る。


考えれば考えるだけ憂鬱になり、長くため息を吐き出しながらあたしは、テーブルへと突っ伏した。


目を瞑れば思い出す、あの瞳。


多分、あたしと似ているんだということは本能で感じていて、だからこそ、踏み込まれることも怖かった。


何より、勇介に見据えられるとどうして良いのかわからなくなる。


あの週末からずっと、あたしの頭の中を占めているのは、だけどもアイツのことだけなのだから。


てゆーか、ヒロトにしてもそうだけど、何であたしの周りってのは軽薄そうな男ばかりなのだろう。


着替えることも億劫なままで、部屋を染めるオレンジの西日は、眩しくて仕方がない。