連れて来られた場所を前に、あたしは嫌でも口元が引き攣ってしまう。


目の前には一軒家が佇んでいるが、2区画分はあろうかという大きさで、豪邸とまではいかないまでも、一般人のあたしには理解が及ばない。



「俺んちだし、入って。」


勇介は、当然のように言ってくれる。


が、あたしはこめかみを押さえ、思考を巡らせた。



「ちょっと待ってよ。
実は隣の家で、間違えたとかってギャグでも言うつもり?」


「何言ってんだよ。」


つまりはコレはやっぱり彼の家で、勇介は金持ちってことだ。


わたわたとしていると、さっさと門扉を開けて中に入る勇介を前に、卒倒してしまいそう。


てか、変なことしないとか言われても、ほいほいと着いていくほどあたしだって馬鹿じゃない。



「CD、前に貸すって約束したっしょ?」


まるであたしの思考を読んだように、彼は振り返って言う。


確か、保健委員の帰りに教えてくれた“オアシス”とかってヤツだろうけど、ぶっちゃけすっかり忘れてた。


どうしようかと思ったものの、犬の散歩をしているおばさんが歩いていて、真っ昼間に制服で人の家の前に立つあたしをいぶかしそうな目で見てきた。


なので仕方がなく、勇介の後に続く。



「どうせ誰もいないし、あんま気にしなくて良いよ。」


と、言われたものの、玄関先で胡蝶蘭に出迎えられてはそうもいかない。


お邪魔します、と言い、ぐるりと見回した。



「…何かすごいんですけど。」


家具とか装飾品とか、あたしだって貧乏ではないつもりだけど、やっぱり高級感があるのは分かる。


でも勇介は、「母親の趣味だから。」とそんなあたしを一蹴した。