口元だけで笑みを浮かべながらも、瞳は冷たい。


多分、ヒロトに対する予防線も兼ねているのだろう、首元のそれ。


手で隠すようにそこを覆ったものの、未だ少し、ぴりぴりとした疼きが残る。


ヒロトとは付き合えないと言いながら、でも無意識のうちに傷つけないようにと思うあたしに、まるで気付いているかのようで。


本気の目をした勇介に、身を強張らせた。



「奈々は俺ばっか見てんだから、いい加減自覚したらどう?」


ドアを背に佇む彼は、あたしを逃がす気はなさそうだ。


が、こんな態度のどこを信用しろと言うのか。



「こういうの、しないでってあたし言わなかった?」


「でも、キスマークつけちゃダメとは言ってないでしょ。」


完璧、挙げ足だ。


柔らかい顔で笑う瞳の奥は、ひどく冷たい色が滲んだまま。


勇介のことを考えていることも、彼ばかり目で追っていることも自覚はしてるけど、それでもこんなことなんて喜べない。


唇を噛み締めてみれば、悔しさの中で涙が溢れた。


だから目を逸らすことしか出来なくて、すると彼は困ったような顔になる。



「ごめんね。
ちょっと苛め過ぎたかも。」


卑怯な男だ。


まるでわかっていたかのように冷たくした後でこんな言葉を投げ掛け、勇介はそっとあたしを抱き寄せた。


あまりにもその腕が優しくて、だから今度は抵抗することすら忘れてしまう。


彼の香りに切なくなって、勇介の腕の中で、やっぱり出会ったあの日を思い出した。