泣いてるつもりなんてなかったのに、確かにあたしの視界はぼやけていた。


でも、それを認めることなんて出来なくて、沈黙の中で言葉を探す。



「奈々が泣いてようと、てめぇにゃ関係ねぇだろ。」


ヒロトは邪魔だと言われた言葉に苛立つように、勇介の肩口を掴み上げた。


けれども彼は、それを振り払う。



「お前が何かしたわけ?」


「それも関係ねぇだろ。」


消えろよ、ともう一度、ヒロトは吐き捨てた。


どうしてこんなことになっているのかなんてわからなくて、なのに涙ばかりが溢れてしまう。


自分で蒔いた種なのに、気付けば収束させる術さえ持てない。


ふたりはそんなあたしを一瞥したが、どちらも引く気はなさそうだ。


が、タイミング良く鳴り響いたチャイムの音で、先に動いたのはヒロトだった。


彼は視界の端で教室から出てくる教師の姿を確認し、舌打ちを混じらせる。



「奈々、まだ話終わってねぇからな。」


そう言って、ヒロトは勇介を睨み、きびすを返した。


正直、喧嘩に発展しなかったことにはほっと安堵したものの、だからって何の解決にもなっていない。


隣に立つ彼は、やっぱり眉を寄せたままだ。


だからまたあたしは顔を俯かせたのだが、勇介は長くため息を吐き出した。



「また葛城の所為で泣いてんの?」


その言葉には、どこか刺々しささえ感じてしまう。


きっとそれほどまでにこの人は、彼のことが嫌いなのだろうけど。