樹里が笑うので、怒ろうと思った瞬間、それを授業開始のチャイムの音が遮った。


こいつらは、とにかく失礼極まりない親友たちだな、と思いながらまた、あたしは肩をすくめる。


席に着くと、樹里は自分の席へと戻って行った。


偶然にも、沙雪とは隣同士の席。


先生が来てもまだ、彼女は右隣りからあたしに声を潜める。



「でもさぁ、ヒロトくんって普通にしてれば格好良くない?」


「アイツが普通にしてたことなんてないでしょ?
第一、顔とか関係ないし。」


ヒロトはうちの学年で、多分一番の問題児だろう。


確かに格好悪いわけじゃないけど、でも、それ以前の問題だ。



「あ!」


窓の外へと視線を滑らせた瞬間、見つけてしまったあの男。


先ほどあたしとの運命論を語ってくれた勇介が、友人らしき連中に囲まれ、グラウンドをだらだらと歩いている。



「ねぇ、さゆ。
あの中の一番右にいる男、知ってる?」


沙雪はあたしと同じように窓の外を確認してから、「知らないの?」と目をぱちくりとさせた。


首を傾げてみれば、彼女はうふふっ、と潤んだ唇に弧を描かせる。



「F組の土屋勇介だよー?」


F組ってことは、A組の我がクラスからは一番遠い。


おまけに沙雪の口ぶりでは、彼はどうやら有名人のようだけど。



「手が早いとかぁ、女泣かせとかぁ、色々噂になってんのー。」


へぇ、そうですか。


夢は夢のままで終わらせておくべきだったのだろうと、今更思う。


てゆーかあたし、アレと友達になったんだっけ?



「それがどしたのー?」