恐る恐る顔を上げてみれば、ヒロトは少し寂しさを帯びた瞳をしていた。


そういう顔なんて初めて見たけれど、でもそんな風にさせたのは、きっとあたしだ。


だからやっぱり自分勝手な罪悪感に襲われる。



「…ごめん、ホント…」


そこまで言って、泣きそうになっている自分に気が付いた。


けれどもここで涙を流すほど卑怯なことは出来なくて、だから言葉が出なくなる。


唇を噛み締めてみれば、「奈々?」と彼は、眉を寄せた。



「お前とりあえず、こっち向け。」


ふるふると首を横に振ると、また涙腺が緩みそうになる。


が、ヒロトはそんなあたしから視線を外し、別方向に向けて眉間に深くしわを刻んだ。


ゆっくりとそちらへと振り返ると、階段の下からこちらを見上げるのは、ひどく冷たい瞳で首を傾ける彼。



「…勇、介…」


呟くあたしと同じタイミングで、ヒロトは舌打ちを吐き捨てた。


呼ばれた彼は不機嫌な顔のまま、階段を昇り、こちらへと歩み寄ってくる。


感じるまでもなくぴりぴりとした空気に、あたしは思わず身を強張らせた。



「消えろよ、てめぇ。」


先に口を開いたのはヒロトの方。


だけども勇介の顔色が変わることはなく、心底鬱陶しそうに彼は眉を寄せる。



「邪魔。」


そう言って、勇介はあたしに視線を向ける。



「なぁ、奈々は何で泣いてんの?」