梅雨はいつの間にか終わっていた。


あたしの風邪らしきものもすっかり完治したけど、でもやっぱり、気分がすぐれることはない。


そんな中で、本当に久々に学校に来たヒロトと遭遇してしまった。


おまけに授業中だ、階段の踊り場にはもちろんあたし達以外には誰もいない。


サボるべきではなかった、と今更思ったが、もう遅い。



「無視すんなよ。」


思わず視線を外してしまえば、そんな言葉を投げられる。


思い出すのはあの雨の日。



「じゃああんま近付かないで。」


言ってやると、彼はあからさまに舌打ちを混じらせた。


けれども珍しく怒りを押し殺すように息を吐き、奈々、とあたしを呼ぶ。



「なぁ、やっぱ好きなんだけど。」


腹減ったな、と言うことと同じくらい普通に、おまけに唐突な言葉。


いや、ある程度予測はしていたものの、まさかヒロトの口からこんな台詞を聞くなんて思いもしなかった。


けれども静まり返ったこの場所で、今更逃げるなんて出来ないだろう。



「お前の答えは?」


じりじりと、間が詰まる。


足を引けば階段から落ちてしまいそうで、迫る彼の瞳は真剣そのもの。


もうずっと考え続けていて、でも答えなんて出なかった。


だからごめん、とあたしは言った。



「それってつまり、俺のこと好きになれないって意味の謝罪?」