「ねぇ、トキくんは誰かに本気になったりしないの?」


問うてみれば、彼は肩をすくめる仕草をし、自分の分のコーヒーに口をつけた。


そしてカップを置き、俺はね、とあたしを見る。



「恋愛なんてゲームだと思ってるし、魚が釣れてしまえばそれに興味なんてなくなるんだよ。」


女を魚に例えても、この人に対する腹立たしさは生まれない。


ただ、本当に、釣りをしている程度のことなのだろうから。



「誰かに縛られるなんて御免だし、心なんか求められても困るんだ。」


それが当然のように、彼は言う。


シンちゃんはトラウマ故に女を愛せないらしいけど、この人もまた、それに至る理由がある気もするが、聞けないまま。



「じゃあ、一生結婚しないつもりなんだ?」


「少なくとも、今はそう思ってるよ。」


外はまた、雨が降り出したようだ。


シンプルなだけの部屋には、少しの寂しさが入り混じっている気がする。


ただ、それでも、一生結婚しないかもしれないと言ったトキくんの言葉に、妙な安堵感に包まれている自分がいる。


まぁ、タチの悪い依存心だろう。



「だから気にしなくて良いよ、俺のことは。」


さっきのことも含めてね。


突き放すでもなく、トキくんは笑ってくれた。


こういうことに愛を感じるのは、あたしがママの娘だからだろうか。


シンちゃんとママの過去に何かがあるから、だから彼は無条件に優しくしてくれるのだろうか。


思い巡らせてみても、答えなんてやっぱり出なかった。