「奈々ちゃんも大変だねぇ。」


ヒロトがトイレに立ったのを見計らったように、隣からスッチがあたしの顔を覗き込んで、楽しそうに笑っている。



「そう思うならどうにかしてよ。」


呟いてはみたものの、彼が傍観者の立ち位置から動こうとはしないのは知っている。


スッチはジッポを指で弾いて遊びながら、火もついていない煙草を咥えた。



「試しに付き合ってやりゃあ良いのに。」


「嫌だよ、そんなの。」


言うと、また彼は声を上げて笑った。


何だかスッチにまで遊ばれている気がして、肩を落とすことしか出来ない。


すると宙を見上げた彼は、でもさ、と思い出したように笑う。



「アイツ馬鹿だけど憎めないよね?」


そうだね、とあたしは言った。


まぁ、憎めないからこそ困ってるんだけど。



「聞こえてんだよ、俺の悪口。」


驚いてふたり、振り返ってみれば、怒ったようなヒロトの姿。


戻ってきたのか、とあたし達は苦笑いを浮かべてしまう。


シンちゃんの方を一瞥してみれば、彼は女性客に捕まっていて、口元を引き攣らせながらも逃げられない状態だ。


トキくんも別のお客と話し込んでるみたいだし。



「じゃああたし、そろそろ帰るわ。」