「ヒロトさぁ、頼むから西女のカノジョとイチャついててよ。」


「あぁ、あれ別れたし。」


驚いて顔を上げたが、彼はスタンディングテーブルに置いていたグラスを傾ける。


そしてあたしに向け、わざとらしくも憎たらしい顔をする。



「まぁ、そういうことだから。」


どういうことだよ。


隠すこともなく口元を引き攣らせるあたしを見ることもなく、ヒロトはまたダーツを投げた。


シュッ、と音がして、それが真ん中より少し上を捕らえると、彼は納得出来ない様子で舌打ちを混じらせる。



「沙雪のことも聞いたけど。」


ヒロトの口から出たその名前にまた驚いたが、彼は表情を動かすことはない。


スッチはあたしに向けて肩をすくめるポーズをし、ヒロトがご機嫌斜めではないことを教えてくれる。


あたしは幾分安堵し、再び彼の背中を見た。



「どうせアイツのはいつもの病気みてぇなもんだし?」


まるで決めつけたような言い方だ。


毎日笑顔の彼女を思い出せばむっとはするものの、コイツの機嫌が最優先だろうと思い、言葉を飲み込んだ。



「もう良いじゃん、その話は。」


スッチは立ち上がり、なだめるように笑う。


後輩くんたちは会話に入れず居ずらそうな表情をしていたので、あたしは黙ってシンちゃんの元へときびすを返した。


なのにヒロトはあたしの後ろをついて来て、何故か勝手に隣へと腰を降ろしてしまう。


シンちゃんはカウンターの向こうから、何も言わずにアルコールを差し出してきた。