黒く塗り潰された世界は厚い雲に覆われ、しとしとと傘を弾く雨音はやっぱり耳触り。


それでも今日もこの街は、ネオンの色に何ら変わりはなく、あたしは濡れないように少し早足になりながら、裏通りにあるあの店に向かう。


看板も、ドアも、壁の色だって真っ黒で、一見すれば誰だって入りたいとさえ思わないだろう。


どこか他を遮断したがっているような造りは、きっとあの男の趣味だろうけど。


まったく、シンちゃんは変わってる。



「おう、奈々!」


ドアを開けてまず声を掛けられたが、店内を見渡して驚いた。


馬鹿騒ぎをしている連中の中に、知った顔が数名いたから。


彼らはこちらに気付いたようにダーツをしていた手を止め、わらわらと集まってくる。



「何でヒロトたちがいんのよ?」


ヒロトとスッチ、他にも後輩らしき男の子たちまでいて、彼らはあたしに向け、チャッス、と軽く会釈をしてくれる。


てか、この子たちなんかよく知らないから、挨拶される理由もないのに。



「あたしのオアシスを溜まり場にしないで。」


「んなこと言うなよー。」


そう言ったヒロトは、もう当然のようにあたしの肩に腕を回し、ご機嫌取りのような顔をする。


だけども怪訝な顔をしたのはシンちゃんだった。



「おい、ヒロト。
てめぇ、あんま奈々にベタベタ触ってっとケツに風穴あけるぞ。」


この人が言うと、別の意味だしマジだから怖い。


元々恐ろしい顔の上にあたしの親戚ということになっているシンちゃんに怒られ、ヒロトは渋々腕を退ける。


スッチは今日も苦笑いを浮かべていた。