「まぁこんなこと、幸せなさゆさんには言えませんけど?」


おどけるように笑って見せられるが、あたしは何と言えば良いのかがわからなくなる。


思わず視線を落としてしまえば、彼女は泣きそうな顔になった。



「うち、両親共働きでさ。
昔はずっとお兄ちゃんといたから良かったけど、今はダメで。」


樹里の家は、両親共に留守がちなのだという。


3つ上のお兄ちゃんは、だから心の支えであり、一番好きだったのに、今は家を出てしまったのだとか。


だからこそ、彼女は孤独が怖いのだと話してくれた。



「うちの家ってさ、お兄ちゃんの友達の溜まり場みたいになってて。
片付けもろくにしないような困った連中だったから、気付けばあたし、世話焼きな性格になってるし?」


漏らすような、そんな台詞。


昔は両親がいなくても毎日が賑やかだったのにー、と樹里は笑う。


聞きながら、いたたまれなくなってしまう。


血も繋がっていないのにお兄ちゃんみたいなシンちゃんやトキくんがいてくれるあたしは、きっと恵まれているのだろう。



「ツカサとはさ、一緒にいるはずなのに、ふたりでも寂しく感じるの。
きっともう、心は全然別のところにあるんだろうなぁ、って思う。」


だからこれ以上は無理なのだろうと、樹里は言う。


その気持ちがわからないわけではなくて、だから余計に悲しくなった。



「結局さ、愛情とかって一生続くとか思えないし?」


「だから樹里は友情が大事なんでしょ?」


そう、と彼女。


樹里が友達が多いのは、単にそれを大事にしているから。


世話焼きで、心配症で、でも人一倍寂しがりな彼女の横顔だった。