目を閉じようとしていた矢先、鳴り響いたのはあたしの携帯の着信音だった。


それを持ち上げてみれば、“樹里”と表示されていて、どうしようかと思ったものの、通話ボタンに親指を乗せた。



『奈々、無傷?』


「おかげ様でね。」


あそ、と言ってから、彼女は本題に入る。



『今さ、あたしヒロトとスッチといんだけど。』


「うん。」


『とりあえずこの馬鹿には説教しといたし、電話代わるね。』


そしてあたしの返事を聞くより先に、電話口でごそごそと音がする。



『…俺だけど。』


ヒロトの不貞腐れるような声。


うん、と言うと、少しの沈黙の後、彼は言葉を手繰り寄せた。



『樹里に平手打ちされた。』


「は?!」


という、あたしの驚きと同時に、電話口の向こうでは、余計なこと言うな、と樹里の声が響く。


そしてそのさらに後ろでは、スッチの爆笑。



『だから、今日のことはナシ。』


何でアンタが勝手に決めてんのかわかんないけど。


まぁ、もう何でも良い。



『けど俺、謝る気ねぇから。』