泣いてなんてないはずだったのに、その言葉によって再び涙腺が緩む。


勇介の体はこんな中にあっても恐ろしく冷たくて、少しばかり震えている気がした。



「俺が良いって言ってんだから、奈々はそのままで良いんだよ。」


「…でも、それじゃあみんなが…」


「みんなって、誰?」


思わず言葉が出なくなる。



「大地とか、他人なんか何の関係もないよ。」


それはつまり、大地くんも彼にとっては他人ということ。


けれど、いくら勇介が良いと言ったって、ヒロトが納得するはずもない。


例えばあたし達の関係だって、傍から見ればおかしいのだ。



「葛城が奈々のこと見てるのなんて、もうずっと前から知ってたよ。
多分アイツも、俺が奈々のこと見てたの知ってたと思う。」


ヒロトの今までの言動を思い出してみれば、納得できる部分もあった。


けど、あたしはどちらも好きで、でもどちらにも恋愛感情なんて持てないのだ。



「俺多分、ずっと嫉妬してたんだよ。」


思わず顔を上げてみれば、「格好悪いっしょ?」と彼は苦笑い。


もしかしたら、シンちゃんとのこともまた、その一因なのかもしれないが。



「つか、こういうの初めてなんだけどね。」


そんなことを言われたって困る。


勇介の言葉はやっぱり遠まわし過ぎて、だから何が言いたいのかがわからない。



「でもさ、奈々が嫌がることとかしたくないし?」