あたしも驚いたけど、でも大地くんの方がもっと驚いた顔をしていた。


先ほどのことがあった手前、思わず勇介に掴まれた手を振り払う。



「やめて。」


なのに彼は、気にすることもなく、またあたしの腕を掴んだ。



「奈々のこと借りるけど、良い?」


「良いけど無傷で返してね?」


あたしは物ではないし、樹里の言葉にだって笑えない。


何より大地くんは、明らかにあたし達のことを快く思っていないような顔をしてる。


だってヒロトの所為で泣いてるのに、勇介がそんなあたしの手を引くだなんて、誰が考えたっておかしな話なのだから。



「てか、あたしも行かなきゃだし。」


「ちょっ、樹里?!」


今度驚いたのは、沙雪だった。


なのに樹里はため息を混じらせ、髪の毛を掻き上げる。



「ちょっとヒロトに説教してくんのよ。
だから沙雪は大地とお茶でもしてなさい。」


まるで母親のような台詞だった。


言われた彼女の戸惑うような顔を視界の端で見た瞬間、あたしの手は引かれる。



「おい、勇介!」


背中越しに聞こえた大地くんの呼び掛けにも足を止めず、勇介はそのままあたしを店の外まで連れ出した。


いつの間にか降り続いていたものは霧雨に変わっていて、傘もささずに無言のまま、街を抜ける。


ただその表情が怖かった。