「とりあえず、さっきのことありがとう。」


「…うん。」


「あたし、もう行く。」


勇介は一度瞳を伏せ、そしてあたしを掴む手を緩めた。


だからそのまま立ち上がり、彼に背を向ける。


第4校舎を出てみれば、相変わらず降りしきる雨の音がして、あたしは渡り廊下で立ち尽くしていた。



「あ、奈々ちゃん!」


弾かれたように顔を向けてみれば、大地くんと愉快じゃない仲間たち。



「勇介探してんだけど、どこか知らない?」


「知ってるけど、多分今は行かない方が良いと思うよ。」


きっと今、他の人間が行けば、勇介はあんな顔を見せまいと、必死で自分を作るだろうから。


だから誤魔化してみれば、彼らは顔を見合わせた。



「なぁ、奈々ちゃんと勇介と葛城って、何?」


大地くんは、当然の疑問を口にした。


この人は、たまに思ってることを考えるでもなく言葉にするから嫌になる。



「てゆーか、勇介とヒロトの関係こそ、何?」


眉を寄せて聞いてみれば、彼らはまた顔を見合わせ、「知らないの?」と問うてくる。


大地くんは一度考えるように宙を仰ぎ、そしてみんなを追い払った。


沙雪の手前、この人とふたりっきりは嫌なのだが、そんな場合でもないのだろう。



「一言で言えば犬猿の仲ってゆーか、水と油?」