恐る恐る顔を向けてみれば、勇介は無表情であたしを見る。


今までで一番その表情の意味を読み取れず、思わず身を強張らせてしまうのだが。



「…何、言ってんの?」


「俺が何も知らないとでも思ってる?」


ヒロトがあたしに向けている気持ち。


だからそれを快く思わないのだろう、勇介の気持ち。


彼があたしを観察していたなら、ヒロトと一緒のところくらい、もう何度だって見ているはずだ。


でも、さっきの行動は、別にどちらかの肩を持ったわけではない。



「…ヒロトのこと、嫌いなの?」


言葉にした後で、愚問だったな、と思った。


勇介は別に、ヒロトだけじゃなく、他人に対して平等に興味がないのだから。



「奈々のそういうとこ、本気で腹立つから。」


瞬間、彼はあたしの手首を持ち上げ、そこに唇を添えた。


先ほどヒロトに振り払われた場所を労わるように、なのにひどく冷たい瞳にぞくりとする。


腹が立つなら、こんなことをしなきゃ良い。



「じゃあ、何で助けたの?」


「そんなこと、俺に聞かれたって困るんだけど。」


「…アンタのことなんだから、アンタに聞かなきゃわかんないでしょ。」


あたし達は、多分好き同士ではないんだと思う。


だから互いに抱いている感情の名前がわからなくて、でもどこか、相手を特別だと思っている。


少なくとも勇介は、あたしのことを自分の内側にいるように錯覚している。