勇介の瞳は、今までで一番冷たいものだった。


ヒロトはぴくりと眉を動かすが、お互いまだ、こう着状態。



「俺に喧嘩売りたいなら、誰もいないところにしろよ。」


「それじゃ意味ねぇだろ。」


刹那、勇介はヒロトを突き飛ばすように手を離す。



「さっきので奈々が怪我してたら、お前責任取れんの?」


あたし?


こんな状況できょとんとするあたしを、ヒロトは一瞥してから舌打ちをする。


勇介の友人連中まで驚いた顔してこちらを見るが、渦中のあたしはといえば、思考が停止したまま。



「奈々、とりあえず来て。」


「へっ?」


そのまま勇介によって手を引かれる。


混乱して、待って待って、としか言えずに半ば無理やりにどこかに連行されるのだが。


背中越しに、ガシャーン、とガラスの割れる音が響き、身をすくめた。


振り返ることは叶わなかったが、多分ヒロトが苛立ち紛れに割ったのだろう。


廊下にいた人々までも、驚いた顔してあたし達を見ている。


何事だ、と言わんばかりの顔で、視線が刺さって痛すぎる。


これじゃああたし、勇介と付き合ってるみたい見えるじゃないか。



「止まれって言ってんでしょ!」