「つか、謝られても困るんだけど。」


正直、気まずかった。


ヒロトはため息をひとつ落とし、また足を進める。


夜の帳は静かすぎて、点々とある街灯に寂しく照らされているだけ。


気を抜けば、ヒロトの姿を見失ってしまいそう。



「言っとくけど、俺はマジなヤツには簡単に手出さねぇから。」


背中を向けたまま、ヒロトは言う。



「別にお前が誰が好きかとか、聞く気ねぇし。」


これはもしかして、告白なのかもしれない。


でもまたあたしは、何も言えなかった。


入学してからずっと、ヒロトはヤらせろとかホテル行こうとか、そんな言葉ばかりであたしに近付いてきていた。


その度に、チャラいとか軽薄だからとか、そうやって言い逃れてきたけれど。


でも、ヒロトの気持ちに気付かないほど馬鹿ではない。



「…ねぇ、あたしは…」


言い掛けると、ヒロトはオイこら、と言ってあたしの言葉を止めた。



「お前今、絶対ろくでもねぇこと言おうとしてるだろ。」


彼は振り返り、まるで悪ガキみたいな顔で笑う。


思わず言葉が出なくなったあたしにヒロトは、「バーカ!」と言った。



「そういうの、俺聞く気ねぇから。」


それでもまだ、誤魔化そうとしていたあたしは最低なのかもしれない。


陰りがちな月に照らされ、気付けばごめん、と言葉にしていた。