『もう存在しないから』

それが”その人”の答えだった。
今となってはわかる事だが、当時の私は存在なんて言葉は知らない。


「そんざい?」


初めて聞く言葉に興味を覚えつつも、私は”その人”の事を知りたかった。
少し上目で首をかしげながら”その人”に聞くと、私が分からないのが通じたらしい。

今度は苦笑いをしながら、今度は子供に本を読み聞かせる母親の様に優しく言い直した。


『本当はここには居てはいけないの』