「そう言えば隊長―。怒っていないの?」
「何が?」
「クローバー隊長の事。この前は話すなって言っていたでしょ」
「別に……」


スペードはそう言うと空を見上げてため息をついた。
それからジョーカーの方に視線を移動させて続けた。


「この世界でアリスとして過ごしていたら、遅かれ早かれ知ることだ。それにあいつらにどう思われようと、俺は……アリスという名を許さない」
「じゃあ縲ちゃんは違うんだね」


「……。」


つかれたくないところをつかれたのか、少し気まずそううな表情をしながら目線を外した。


「だって……縲ちゃんはアリスであってアリスではないから……そしたら……そうだ隊長」


話している途中に何かを思い出したのか、急に話題を変えた。

口調は軽いが、表情は少し哀しそうだった。


「なんだ?」


その彼につられてか、スペードの声のトーンを少し低めだった。


「もしさ縲ちゃんが敵として前に現れたらどうする」


軽い雑談のような雰囲気だったが、その内容はとても深刻なものだった。


「そしたら……倒すしかないだろう。俺らは軍人なんだから」


そう話す声には何時もの覇気など感じられなかった。


「そうだね」




あーあ、なんで俺は軍人になってしまったんだろう。



そう呟きながら、ジョーカーは縲が進んだ方向を見つめていた。