『ひよこ』




その呼び方をするのは私の知る限り1人しかいない。


「来いよひよこ」



教室の中からあいつがもう一度呼ぶ。



私はひよこじゃない!


ひーなーッッ!!



そう心の中でツッコミを入れる。



はぁぁー


行きたくない。


わからないかなー


あいつの周りにいる女子達の私に向ける嫌なオーラが。


足が動かない。



もう目の前にいた先輩は、あいつの元に行って辞書を渡していた。



ちゃんと届けたんだからいいじゃん…。


私に用はないでしょ?


私が回れ右しようとした時



「ひーなちゃんおいでよ〜」



ん???この声って……



回れ右の足を止めて教室に目を向ける。



やっぱりソウタ君だ。


ニコニコ笑顔。


天使みたいな笑顔。


あいつが悪魔なら


ソウタ君は天使だよ。



なんでソウタ君があいつと友達なのかわからないくらい正反対な2人。



手を振るソウタ君に



私も控え目に手を振り返す。